龍谷大学
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龍谷大学経営学研究科ビジネス(MBA)コース集会 生産システムサロン

第13回(2001年6月2日)

ハイライト「品質問題特集:日本における経緯と課題」
コーディネーター:由井 浩本学教授

I. 由井コーディネータのイントロダクション
 企業経営における品質管理の意義を考えるとき、最初に品質と収益性には関連があることを指摘すべきである。つまりきちんと品質管理を行なっている企業は、結果として利益が上がっている。全体としてみると、海外製品と比較して日本製品の品質の信頼性は未だに向上している。ただ最近の日本企業のリコール隠し、食品中毒、タイヤ・リコール、ロケット打ち上げ失敗、医療事故、新幹線のトンネル内コンクリート落下事件などを見ると、不安を感じることも多い。このような事件の多発を品質の危機ととらえ、未然防止への対策が学会で検討されはじめ ている。
II. 話題提供
(A) 「製造業―製品品質から企業品質へ―」宝酒造:森 辰吾氏(第7期在学者)
 製品品質とは、原材料サプライヤーから安心できる原料の提供を受け、責任を持って製造を行い、流通を経て、顧客を満足させる製品を出荷することである。例えば、雪印は原材料サプライヤーに原因があり、信用を失うことになったが、その後の対応の不備で企業の信用も失ってしまった。初動が遅く、情報開示を十分に行わず、マスコミ対応の拙さやリーダーシップ不在などが重なり、社会不安にさえつながった。このように最近の双方向への情報のスピードアップにより、主導権が製造業から流通へそして顧客へと移っており、製品品質もさることながら、企業品質へ注目が集まっている。企業品質が高くないと顧客から注目してもらえない。企業の社会的責任の重要性は急速に高まっており、今後企業品質が重要になっていくであろう。
(B)「流通業-食品販売の品質向上について-」いかりスーパーマーケット:三角進弥氏(第3期修了者)
 いかりスーパーマーケットは品質重視で商品を揃えることにより、坪当りの売上げが大手量販店平均の約2倍になり、注目されている小売店である。その実体は単なるスーパーマーケットでなく、製造小売業ともいえる。自社工場での内製化を最優先し、内製化できないものは外部委託製造、そして内製化も外部委託もできない商品だけをよく吟味して他社から仕入れる。品質を重要視し、「自然」、「安全」、「健康」、「便利」、「おいしさ」の5つの視点から商品開発を行なっている。多くの小売業が激しい経営環境で苦しむ中、自社ブランドの品質安定化、高品質保持に徹し、価格競争に巻き込まれず業績を上げている。
(C)「企業の経営品質」ミタニマネジメント研究所:三谷富祥氏(第5期修了者)
 長年商品開発を担当してきたが、その経験から、企業経営には従業員の脳力開発が最も重要であるといえる。個人個人の脳力を開発することにより、各部署の仕事の質が向上し、結果的に経営品質が高まり、企業経営がうまくいくようになる。このためには“脳力”を心と思考と知識に分けて考え、それぞれを高める必要がある。経営の進め方としては、先ず経営者が正しい方向を定め、従業員各自はそのために何ができるかを考え、相談しながら自分にできることを行うことになる。
(D)「2000年版 ISO 9001 ― ISOの動向とその概要― 」三和総合研究所:宮崎耕史(ゲスト)
ISO9001 の2000年版が2000年12月に発行された。ISO9001は、世界では37万事業者が、そして日本では2万事業者が認証取得しているが、一部に認証取得が目的で実際の効果を上げていない問題があった。これは前回の1994年版が現場重視に偏っていたためと考えられる。このため経営者の理解が十分に得られなかった面がある。そこで2000年版は経営者の積極的な参加を重視し、顧客重視、リーダーシップ、人々の参画、プロセスアプローチ、システムアプローチ、継続的改善、意思決定事実に基づくアプローチ、供給者との互恵関係の8つを理念に発行され た。その目的は、より役に立つISO9001である。
III. 特別講演「品質の概念を巡って」守屋 晴雄本学教授
品質概念は、とらえる目的などによって一様でなく、多義的である。“品質”という言葉は消費者と生産者の両方で日常的に使われているが、この場合商品の質を指していることが多い。しかし語義から考えると、必ずしも有体物である必要はない。対象を、つまり品の意味を広げることにより、サービスの品質なる概念も成り立つ。
アメリカのマルコム・ボルトリッジ国家品質賞では、経営の品質を評価している。経営システムという非有体物に品質考察対象を拡大している背景には、アメリカにおける経済のサービス化の進展があろう。このような品質概念の拡大により、その評価要素も拡大していると考えられ、これを明らかにすることが今後重要となろう。
IV. 豊島 正利本学教授のまとめ
システムとして品質問題を捉えることの重要性、その計画の重要性を指摘し、“生産性”の再考を示唆し、総括とされた。

(お知らせ) 「生産性」問題特集を、来年の話ながら、2002年11月開催予定の第16回生産システムサロンでとりあげる。
コーディネータ:豊島 正利本学教授。

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