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龍谷大学経営学研究科ビジネス(MBA)コース集会 生産システムサロン

第16回(2002年11月16日)

海外事情 (1)「イギリス再訪」:大阪学院大学 石倉弘樹助教授(ゲスト)
2002年9月10日から12日までイギリス北東部ヨーク州リーズ市のリーズメトロポリタン大学で開催されたThe 18th National Conference on Manufacturing Research (NCMR) に参加。国内会議であるためイギリス内の大学や企業からの参加者がほとんどであったが、出身国は様々で中国、台湾、マレーシアなど東南アジアの大学を卒業し、大学院からイギリスに来て現在大学に職を得ている人も目立った。これはイギリスの大学が研究を活性化するために、従来以上に広く人材を求めていることと関係があろう。発表内容としては、ITを用いた企業戦略の概念的な方法論を示すものが多かったが、これは現在の世界的な傾向でもある。
(2)「ベトナム経済事情」:東京経済大学 棚橋啓世教授(ゲスト)
グローバリゼーションは必ずしも発展途上国の発展につながっていない。ベトナムは労働者の質が高く、人口8千万人の大きな市場を有する国であるにもかかわらず、現在は経済が停滞しており、将来への展望も開けていない。圧倒的な生産力を持ち始めた中国から製品が入ってきていることが直接の理由であるが、市場に対する情報力がなく、たとえ情報収集が可能であっても、それに対応する技術力が十分でない。また民営化により、販売力が低下している。この大きな原因は政府にあろう。政策が足枷になり、企業の自由な活動が制限されている。資本主義経済に対応できる競争力のあるベンチャー企業を育てるための経済政策を実行していくことが、今後の重要な課題である。

生産性再考:コーディネータ=龍谷大学 豊島正利教授(スタッフ)

(1) コーディネータ:「はじめに」
IT化が進んでいるが、このことにより本当に日本の生産性は伸びているのであろうか?Effectiveness と Efficiency、この2つの観点から今日は改めて「生産性」という課題を考えて行きたい。
(2)「生産性:イントロダクション」:龍谷大学 人見勝人教授(スタッフ)

生産性とは生産工程の有効度を表す尺度であって、次式で計算される。    (生産性) =(産出高)/(投入高) そして分子と分母がとる単位により種々の生産性が規定される。産出高を数量単位で測ると物的生産性、そして金銭尺度でとらえると価値生産性、また投入要素にとらえると、労働生産性、資本生産性、資源/原料生産性などになる。

我が国の物的生産性は高い(日本100に対し、米86、独60)が、付加価値労働生産性(労働者1人当り付加価値額)は、全産業(国民経済生産性)/全製造業〈1時間当り〉で日本100に対し、アメリカ137/134〈128〉、ドイツ124/103〈132〉、イギリス104/127〈130〉、韓国66/73. であり、我が国は決して高くない。

この数十年間のデータを基に日本の産業部門別付加価値生産性の伸びを比較すると、製造業が際立って高い。それにもかかわらず、2000年における日本の産業部門別1時間当り付加価値労働生産性を見ると、製造業は平均以上ではあるが、極めて高いわけではない。

(4)「製造業の生産性II:多角化部門研究所における生産性向上の取り組みとその成果」    :住友金属工業 橋本昌也氏(3期修了者)
研究所の生産性を「単位投入資源当りの技術情報の生産量」と考えると、これを増大させるには「投入資源の減少」と「技術情報の増大」が必要である。そこで投入資源を減少させるため、次の各費用を減少させた。労務費(賃金カット、人員削減)、直接経費(材料加工費の削減)、設備経費(不要設備の廃却、不要空調の停止)、間接経費(不要特許の放棄・売却、間接部門のスリム化)。これにより、研究者1人当りの平均経費を2/3に減少することができた。技術情報を増大するためには、タスクフォース体制をとることが有効であった。“タスクフォース体制”とはプロジェクト体制の問題点(厳格な目標管理と研究所主導が変化への素早い対応を阻害、二人の上司の間でメンバーが混乱)を克服するために作られた体制である。研究所チームと製造会社チームで一つのタスクファースを作り、リーダーは両チームから出す。研究所の技術者は同一部門に所属する。これにより分野の異なる専門家が互いに刺激し合い、1つの仕事に専念することで、開発期間を半分以下に短縮することができた。
(5)「サービス業の生産性:雇用創出システムとしてのアウトプレースメント」    :日本ドレーク・ビーム・モリン(株)/高知工科大学大学院後期博士課程 橋本俊作氏(3期修了者)
「アウトプレースメント」とは再就職支援を意味し、組織変革のニーズを持った企業と契約し、変革遂行をサポートするとともに、求職者の再就職を支援する。自己分析、職務分析、目標設定に始まり、職務経歴書作成と面接訓練を行ない、求職活動のアドバイスをし、再就職決定へと繋げる。  アウトプレースメントは単に組織改革を行なっている企業を助け、再就職希望者を支援するにとどまらず、大きな視点から考えると、行き詰まりを見せる日本経済再生の有効策としての可能性を秘めている。シニアの再雇用は極めて困難な状況にあるが、実力を持った人が多く、起業家として新しい事業を行なっていく可能性を持っている。そしてこの人たちの起業が成功すると、そこにはまた新たな雇用が生まれる。企業内外にこのような新規事業が興っていくことが、経済の再生・進化に結びつく。このために人材マネジメント・サイクルを如何に構築していくかが今後重要な課題である。
(6)コーディネータ:「まとめ」
日本の生産性の現状を紹介していただいた。そして製造業については固有技術からの生産性向上、管理技術からの生産性向上それぞれについて有効な実例を見せていただいた。また日本で生産性が低いといわれているサービス業からも大変興味ある発表をしていただいた。本日の講演を通してわかったことは、結局一人ひとりが仕事により成長し、自己実現を図る、そして自身の持っている才能を発揮していくことが、全体としての生産性を上げてゆくということではないだろうか。

■次回:第17回生産システムサロン案内:2003年6月4日(土)午後2時半開始
・ハイライト:特別講演
桑田秀夫 大阪学院大学教授  「現代生産・経営」(仮題)
石倉三郎 岡山商科大学元教授 「イタリアの中小企業」(仮題)

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