龍谷大学
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龍谷大学経営学研究科ビジネス(MBA)コース集会 生産システムサロン

第17回(2003年6月14日)

以下の海外報告2件、特別講演2件が発表され、深く感謝申し上げます。殊に70歳代のお二人の先生の特別講演は迫力一杯で、聴衆に多大の感銘を与え、学問に年齢が無いことを印象づけられました。

海外報告

I.「ASEAN3カ国日系自動車工場訪問」:龍谷大学 由井浩教授

2003年2月18日から3月5日まで、マレイシア、タイ、ベトナムにある6つの日系自動車工場を視察した。総じて南に行くほど、にこにこ愛想が良くなり、動作はややゆったりする傾向があった。  作業能率を日本親企業と比較すると、50~85%程度で比較的高く、品質レベルも日本と比較して80%以上で、半数程度の工場では日本とほとんど差異がなかった。年間生産台数は152台から13万台まで様々であった。  ベトナムの2工場は個別生産であったが、1工場を含む4工場ではラインで大量生産が行われていた。

II.「中国金型産業の動向」:金型経営研究所 岸本善男所長

最直近の1999年度の中国統計を見ると、これまでと同様に中国の金型産業は高い成長を遂げてきている。1994年と比較すると、生産額は年率で平均15%近く増加しており、企業数は5年間で1万から1万7千に増えている。この状況は、1970 年代の日本とよく似ている。

製品価格が日本の40~50%であるため、全体の生産額では、まだ大きな差があるが、出荷量では近い将来日本を抜くことは明白である。ただこれにより、日本の金型産業が近い将来中国に駆逐されると考えるのは、行き過ぎた中国脅威論である。

生産額で20%程度の華南地区および5%程度の海外大手メーカ専門の企業は、確かに技術レベルがかなり高いが、70%以上を製造する一般企業は技術的にも 1970年代の日本企業に近く、近年CAD/CAMを導入している日本企業との技術格差は大きく、日本企業がより付加価値の高い製品を作り、棲み分けすることは可能である。

特別講演

I.「現代の企業経営と生産システム」:大阪学院大学 桑田秀夫教授

企業は社会の要求に応えて、物財やサービスを提供するが、品質・機能、コスト、納期を守るだけでなく、適正な利潤によって、従業員・株主に報酬や満足を還元し、地球環境を守りながら成長を続け、豊かで安全な社会作りに貢献する責任を負っている。このためには常に、古い体質を捨て、技術革新、新需要の創造、新市場の拡大、新商品の開発、新資源獲得に努めねばならない。

技術革新と新需要の創造を進めるには、勘と経験に加えて、科学的アプローチにより先見性、創造力を生むことが大切となる。つまり学理と実践の調和を図ることが肝要である。特に近年はトータル・システム指向が顕著になっており、部分最適から全体最適(例えばサプライ・チェイン・マネジメント)、世界に向けてのグローバル化が重要な問題となっている。また情報の活用と事業の見直しにより、リエンジニアリングとリストラが行われている。

生産システムを考える上でも、トータル・システム、情報の有効利用、生産イノベーション、品質保証と製造物責任、環境保全は重要なポイントとなっている。生販統合システムは在庫とリードタイムを同時圧縮するトータル・システムの最適化問題であり、JIT方式の応用例と見ることができる。ITはCIM、MRP、電子かんばん、POS等々、生産システムの中で大きな役割を果たしているが、物の流れと情報の流れの同期化が本質的に重要である。

生産革新の基本は固有技術と生産管理技術の追求、熟練、活用にあり、科学的アプローチが革新に繋がっている。例として、デュポンの合繊から生命科学、NEC の通信から総合エレクトロニックス、キャノンのカメラから情報産業、花王の石鹸から界面活性剤、トヨタの無駄の追求からJITなどが挙げられる。

1995年から施行されている製造物責任は、製造物の欠陥による被害に対して、それが故意過失の有無を問わず、供給者の賠償責任を求めており、品質保証と併せて、企業の責任は以前よりも強く要求されている。環境問題は人類の存続に関わる本質的な問題であるが、特に工場、自動車から排出される二酸化炭素と廃棄ごみ焼却から発生するダイオキシンの低減が現在求められている。

II.「イタリアの中小企業の動向-「第3のイタリア」を中心として-」:岡山商科大学 石倉三雄元教授

昨今、地域からの発想が見直されており、特に内発自立型の地域経済の発展が注目されている。これには大量生産体制による、分業の限界、人間不在の職場、市場における商品の過剰・飽和状態、消費・需要の多様化と資源の枯渇化などへの反省が関係している。

内発自立型の経済発展を果たした地域として、イタリア中部から北部・北東部の「第3のイタリア」が挙げられる。その特徴は、多数の同一業種小企業の有機的結合によるネットワークの形成にあり、支えた地場産業は、伝統的分野では主として繊維、衣服、靴、家具、近代的分野では工作機械工業である。第3のイタリアの小企業は、世界の多くの地域で見られる大企業の皺(しわ)寄せを受けるような下請け問題が少なく、生計と労働が一体化し、特化した産地形成がなされている。経営者と労働者は特に高い収入があるわけではないが、家庭から近い職場で生き生きとやりがいを持って仕事を行い、産地企業はその蓄積された経営資源や、長年にわたって温存され、蓄えられてきた技術・技法を活用し、フレキシブルな労働力の展開によって、イノベーションの機会を高め、産地特有の張り巡らされた情報ネットワークを踏まえた上で市場への挑戦を試みている。

第3のイタリアに見られる産地産業を骨格とする地域の内発的な自立発展は、職人企業や小企業の力量に負うところが大きいのは当然であるが、産地産業と地元住民の一体化、そして地域に密着した州レベル、またそれに関連する諸団体の施策や支援に負うところも大きい。

日本では、大企業が国内市場のシェアを支配し、国際競争力を追求するとともに、強力な産業政策が推進され、海外のライバルに対し、国内企業の競争優位を確保しようとしてきた。第3のイタリアの出現は、巨大会社無しに高い生活水準を維持することが可能なことを示しており、今後の日本においても成功モデルになるであろう。しかし、その産地形成には地域の文化や宗教が大きく影響しており、生活や価値観の違う日本で、そのまま真似することは難しいであろう。

■次回:第18回生産システムサロン案内:2003年11月15日(土)午後2時半開始
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