龍谷大学
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龍谷大学経営学研究科ビジネス(MBA)コース集会 生産システムサロン

第19回(2004年6月12日)

本サロンでは初めての形式として、パネル・ディスカションを行った。発表および質疑・討論の概要は次のとおりであった。

「これからの“ものづくり”展望」(パネル・ディスカション)

1.報告内容

(1)「これからの“ものづくり展望”」 中條鐘一氏(中條設計技術研究所所長)
中條氏は最初に「ものづくり経営革新」(さくら総研)や「日経ものづくり」誌の創刊、「ものづくり」を蝕む三つの罠、「ものづくり戦略」など最近の重要な出来事を紹介し、続いてISO13407「人間中心設計プロセス」を援用しつつ、「使う人の立場からの使いやすい設計、すなわちそのような人間工学」が今後における設計の中心思想であること、および高齢者や障害のある人々を考慮した優しい人間中心の設計の重要性を説いた。最後に、上記の規格が世界的な潮流であり、日本企業の経営姿勢や経営戦略も国際的な視点から改革されざるを得ないと主張した。
(2)「これからの“ものづくり”のための品質マネジメント・システム」
豊島正利氏(豊島コンサルティング代表取締役、前龍谷大学教授
豊島氏ははじめに、企業マネジメントの立場から“ものづくり”に対する考え方に関して、その意義と目的、ものづくりの主体、手段と方法について概説した。次に品質管理の視点からとらえた“ものづくり”の発展過程と、さらに品質マネジメント・システムの本質と原則、およびモデルを取り上げその最大の特徴としてトップマネジメントが介在したものであることを明らかにした。最後に“ものづくり”の課題として経営戦略と技術的視点やリーダーシップの追求が肝要であることを強調した。
(3)「これからの“ものづくり”現場」 福井則夫氏((株)鯖江村田製作所専務取締役)
福井氏は最初に「“ものづくり”とは何だろうか」について悩んだことを披瀝したあと“ものづくり”の原点が「自然からの学習とそれとの共存」および「“人づくり”すなわち自然から学び工夫して先人の力にプラスアルファを生み出すこと」にあると述べた。続いて現代の“ものづくり”の課題が自然に優しいこと、およびスピードと低価格化にある。それらを志向した“ものづくり”の流れは独自技術力の強化にあり、その実現方策として固有(製造)技術のノウハウが何よりも必要で、さらに「ムダ排除」のために管理技術によるカイゼンを続けることと管理工程図を活きたものにすることが重要であると説いた。最後にものづくりプロセスを意識した教育と、現場を原点に据えることを強調した。
(4)「これからの“ものづくり”教育」 宋相載氏(広島工業大学知的情報システム工学科助教授)
宋氏は先ず“教育”を取り巻く環境変化の特徴と、それに対応した独自の教育アプローチ、すなわち総合教育システムの概念とねらいを紹介した。これは端的には「何かをつくることのできる教育」を目的として、体験学習によってものづくりにアプローチすることである。次にそのような総合学習システムの方法、テーマとツール、さらに商品企画や最適化解析、最適設計、3次元モデリング、加工シミュレーション、試作品の制作、評価・改善まで詳説した。最後に少人数の魅力ある教育を達成するためには「教育は人と金」を認識することが重要であり、そしてそのような確固とした“ものづくり教育”を行えば理工系離れも見直されうると述べた後、専門知識の総合的な活用を意識の中心に据えてさらに教育方式の改善を図っていきたいと結んだ。

2.質疑・討論

質疑の後、4人の発表に共通して重要と思われた論点の中から2点を司会者が取り上げ、各パネリストにさらに論じていただいた。

第2点は、標準化すなわちルールないし文書化の功罪両面性についてである。

中條氏は、1985年に東京で開催されたISOの会議において、当時すでに日本に存在した70に及ぶ優れた JISに関する品質管理の国内標準をISOに採用させる機会を失したことが大きい要因となって、世界的にISO9000 シリーズの必要性を認識させるに至ったことを紹介した。

豊島氏は1980年代当時のTQCは生産現場が主に実践し、その他の部門の参加やトップの介在が希薄 だったのではないかと日本のTQCに関する指摘をした。

福井氏は以下の見解を示した。
(1)ルールについては、それをつくった本来の背景を忘れないことが前提であり、その上でそれを守ること、 および改善することが重要である。
(2)ISO 9000sに関しては、例えば米ビッグスリーではその取得を取引の条件にしているように、ビジネス (商売)の必要上が主目的になっている。
(3)また、日本企業にISO 9000s認証取得のために時間と金をかけさせるのはアメリカの対日戦略の意味が あるのではないか。
(4)ただし、ISO 9000シリーズは1企業、14000sは世界中、というように対象とするところが異なるので両者を 同一レベルで論ずるべきではない。

第2点は、さまざまな局面における“インターラクション”についてである。発表の中で中條氏と豊島氏は それぞれ技術と経営戦略の、また福井氏は固有技術と管理技術のインターラクションの重要性を示唆した。 宋氏は、ものづくり教育におけるポイントが“感動、チームと各自の役割、自発的な思考、高度化”にあり、 人見教授の著書 Manufacturing Systems Engineering 2nd ED.(1996、p.513) を引いて専門知識の総合的な 活用を常に意識の中に据えている旨述べた。

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