- 教員氏名
- 國重 裕 教授
「単純さのなかの高貴、静けさのなかの偉大」。18世紀ドイツの古典美学者ヴィンケルマンの言葉です。原文は"eine edle Einfalt, und eine stille Größe”で、直訳すれば「高貴な単純さ、静かな偉大さ」です。
仏教では、懺悔文にあるように、人間の「貪瞋痴」すなわち「むさぼり、いかり、無知」には果てしがないと考えます。だからこそ、日々の暮らしには不断の反省が必要です。ヴィンケルマンの言葉は古代ギリシャ芸術を形容したフレーズですが、ぼくにとっては理想的な生き方・人間像です。
「教養」とはたくさん知識を身につけることではありません。多様な学問領域に接し、多様な価値観・文化に触れることが、自分の(そしてあなたの)人格のスケールを大きくし、ゆたかな人生を送ることができるという考え方です。自分の目先の利益だけをあげるのではなく、世界全体の発展に貢献することが、長い眼で見てみずからの幸福として返ってくるという理念です。
そのような見地から学生に勧めたい映画は、「灰とダイヤモンド」、「ソフィーの選択」、「未来世紀ブラジル」です。
研究テーマを平たくまとめると次の3つになります。「なぜ昨日まで隣人として仲良く暮らしていた人が、銃を持って殺しあうようになるのか」「子供兵、子供労働をなくすにはどうすればいいか」「戦争ではなく、ことばの力(理想を語ること)で世界を変えていけることはできるか」
卒業論文では、旧東ドイツの反体制派知識人を、博士論文ではユーゴスラヴィア内戦中、西欧の知識人が「人権と民主主義」を振りかざし、ステレオタイプなバルカン・イメージにしたがって「野蛮な」ユーゴを非難したことに対し、むしろ西欧的な多文化主義の観点からユーゴの知識人が、「普遍主義」を掲げる西欧の傲慢を批判していく姿(多文化主義を実践してきたのは、むしろユーゴの方だった)を論じました。また修士論文以来、オーストリア文学研究をとおして、ドイツ語圏でアイデンティティ構築の営みが全体主義に結びつく危険性を指摘してきました。
2013年フランスでの在外研究を期に、カリブ海、アフリカ、アジアとヨーロッパ(とくにフランス)の関係にまで視野を広げ、ドイツ語圏にとどまらず、西欧の近代化が招いた光と影(この二つは切り離せません)を、主に文学作品を手がかりに研究しています。文献だけでなく、フランス革命の「自由・平等・博愛」ではなく、「公正・寛容・平等」「多文化主義と寛容の精神」を実践している地域に、実際にフィールドワークに出かけています。